裏拍基軸リズム理論(更新 2025/06/09 00:46:11 )

裏拍基軸リズム理論 〜 裏拍地動説への道しるべ (工事中)

日本人が演奏する音楽のリズムは、海外の人が演奏する音楽と比べて何かが違います。この違いは海外の人々が弱拍が強拍の前に来ていると認識している事に対し、日本人は強拍が弱拍の前に来ていると認識している事によります。

この違いは言語自体が持っているリズム認識の違いから生まれます。日本語が持っているリズム認識を音韻学でモーラ拍リズム と呼びます。そして英語が持っているリズム認識を音韻学ではストレス拍リズムと呼びます。この言語自体が持っているリズム認識の違いが、音楽での強拍と弱拍の前後関係の違いとして現れます。

このリズム認識の違いは、無意識の内に音楽を演奏する時の強拍弱拍の順番の認識の違いとして現れます。即興演奏や作曲をした時の無意識の音符の配置の仕方にはっきりとした偏りを生み出します。これは音楽だけでなく、日常的に行っている動作や、行動・物事の動きの認識に至るまで、全ての認識に対して大きな影響を与えています。

音符が2つある時の順番の認識の違い

強拍が先か弱拍が先か

もし音が次のように2回鳴った時、貴方はその音符をどのように譜面に配置しますでしょうか。

きっと次の様に解釈するのではないでしょうか。

恐らくそれが最も自然で当たり前だと感じられたのではないでしょうか。

しかし次の様に解釈することも可能です。

この様に解釈しても決して間違いではありません ─── どちらが正しいかは、その前後の音符の文脈をよく把握した上で判断する必要があるかも知れません。しかしこの判断には、母国語とする言語によって偏りが見られます。

更に踏み込んで考えると、これは2つの音が定期的に鳴っている時、2つの音のどちらが強拍で、どちらが弱拍に聴こえるか…という問題に集約されます。次の音符を見てください。

強弱認識

この様に解釈した方は、恐らく弱拍が後ろに付随していると解釈したと見ることが出来ます。この場合の順番は『強弱』です。

弱強認識

逆に

この様に解釈した方は、恐らく弱拍が前に付随していると解釈したと見ることが出来るでしょう。この場合の順番は『弱強』です。

『強弱』しか認識出来ないモーラ拍リズム(日本語)

この時、モーラ拍リズムを母国語とする人には、強弱を自然と感じ弱強を不自然に感じるという認識の偏りが起こります ─── これが日本人がグルーヴしない問題の本質に存在します。

日本人は何故グルーヴしないのか ─── その理由は、モーラ拍リズム(日本語)を母国語とする人は、『弱強』のリズムを前提とした多層に構成されるリズムを聴いた時、そのリズム構成が理解出来ないからです。

『強弱』と『弱強』の両方が現れるストレス拍リズム(英語)

海外の音楽には『強弱』と『弱強』の両方が現れます。『強弱』の方が自然だと感じる人は、海外の音楽を聴いた時、聴いたリズムを解釈出来ずに、模倣したり採譜したりした時に正確に再現できないという問題が起こります。日本の音楽では、ほとんどの場合『強弱』のパターンしか現れない為、日本の音楽だけを聴いていると、このリズム認識の偏りに気付くことができません。

ストレス拍リズム(英語)を母国語とする人は、強弱を自然と感じ弱強を不自然に感じるという認識の偏りを持っていません。 彼らは 強弱・弱強の両方を自然に感じています。 弱強の配置にリズムを強く感じるという認識を持っています。

強弱リズム解釈の人は弱強リズムを聴き間違える

モーラ拍リズムを母語として話す人は、ストレス拍リズムを母語として話す人が演奏するリズムを強弱リズム解釈として1つずれた形で認識します。

弱強リズム解釈

ストレス拍リズム(英語)の話者は、バダムツーを聴いた時、4分音符で弱強で、8分音符で弱強で解釈します。

この解釈を音楽で表すと次のようになるでしょう。

強弱のリズム解釈

ところがモーラ拍リズム(日本語)の話者は、バダムツーを4分音符も強弱、8分音符も強弱で解釈します。

この解釈を音楽で表すと次のようになるでしょう。

この様に、ストレス拍リズムの人々が演奏する弱強リズムが前提で構成されたリズムパターンを、モーラ拍リズムの人々は、強弱リズムとして1つずれた形で間違って解釈します。

言語によって異なるリズム認識

日本語のリズム認識のことを学術的にモーラ拍リズムと呼びます。世界的に見てモーラ拍リズムを持った言語は日本語しかありません。一方英語のリズム認識のことを学術的にストレス拍リズムと呼びます。ストレス拍リズムの言語は英語だけではなく、ロシア語やドイツ語など世界的に見ると英語以外にもたくさん存在します。

モーラ拍リズムの特徴

日本語のモーラ拍リズムには以下のような特徴があります。

  • 発音が一定時間ごとに区切れておりこの1音をモーラと呼ぶ。
  • モーラは主に母音と子音で構成され末子音を持たない。

言語学ではこれらの特徴を総合してモーラ拍リズム言語と呼びます。

ストレス拍リズムの特徴

ストレス拍リズムは日本語のモーラ拍とは全く異なる特徴があります。

  • 一定の時間毎にストレス拍(強拍)が置かれている。
  • ストレス拍の隙間を埋めるように複数のアンストレス拍(弱拍)を分配する。
  • 強拍は必ず母音。
  • 弱拍は子音と母音の両方がある。

言語学ではこれらの特徴を総合してストレス拍リズム言語と呼びます。

モーラ拍リズムとストレス拍リズムの違い

モーラ拍(日本語)とストレス拍(英語)のリズムの違いは、アメリカ人が日本語を話した時によくなる英語訛り「ワターシワァ? ニーホングゴォウゥオォ? ハナァシマスゥ!」という話し方に端的に現れています。アメリカ人は、ストレス拍を基準に非ストレス拍を短く揃える様に発音する習慣を持っている為、全ての拍を均等に揃えることが出来ません。

逆もまた然りです。日本人が英語を話すときになる「アーイ、スゥピィークゥ、イィンーグゥリーシュー」というような日本語訛りに端的に現れるでしょう。本来であればストレス拍と非ストレス拍の区分をはっきりさせて、ストレス拍の位置を定期的に配置しなければならないところを、全ての拍を均等に同じ長さで発音する習慣を持っているために、ストレス拍及び非ストレス拍の区別をつけることが出来ません。

モーラ拍(日本語)とストレス拍(英語)の違いを短くまとめると次のようになります。

  • モーラ拍は、子音が必ずモーラの中に入っている。
  • ストレス拍は、子音が必ず「モーラ(アクセント)」の前にある。

そして更に踏み込んで調べてみますと、次の様な認識の違いが存在することがわかります。

  • モーラ拍は、子音と母音を区別しない。
    • ストレス拍(英語)には連続する複雑な子音クラスターがたくさん現れるため、いつも子音の位置を意識して発音しますが、モーラ拍(日本語)は子音が短く単純な為、ほとんどの場合その子音の位置を意識しません。
  • モーラ拍は、末子音がない
    • ストレス拍は子音だけ単独で発音することが出来るため、当然音節(シラブル)の末尾に子音が来ることは稀ではありません。しかしモーラ拍(日本語)では、外来語で現れる末子音にも、その子音だけで独立した1モーラを割り当てます。つまりモーラ拍では末子音が存在することが出来ないのです。
  • モーラ拍は、多重子音がない
    • 多重子音にはそれぞれの子音に母音をつけ1モーラが割り当てる。
  • モーラ拍は、子音が短い
    • → 母音とモーラが主体で子音は重要ではない。
    • → 子音数が少ない。
  • モーラ拍は、母音しか意識しておらず子音が意識できない
    • → 母音とモーラが主体で子音は重要ではない。
    • → 子音数が少ない。
モーラ拍 ストレス拍
子音と母音を区別 ない ある
末子音 ない ある
多重子音 ない ある
子音 短い 長い
子音を意識 しない する

言語上でも弱強リズムを強弱リズムとして聴き間違える

具体例として次のビデオを見てみます。

このビデオに登場するのは2011年前後に一世風靡したLMFAOというボーカルユニットです。彼らがストレス拍リズムで発音する「エルエムエフエイオー」が、モーラ拍リズムの認識では『エェレッメッフェイヨウ』と認識されます。

これはストレス拍リズムの弱強リズム認識を、モーラ拍リズムの強弱リズム認識で間違って認識してしまうことから起こります。

上記はストレス拍解釈の発音をモーラ拍リズム解釈で解釈し間違えた時の状態を図式化したものです。

音符が3つ以上あった時の順番の認識の違い

モーラ拍リズムのリズム認識をここでは頭合わせと、そしてストレス拍リズムのリズム認識を尻合わせ と呼びたいと思います。

縦乗りに気付く

貴方は、誰かとペアになってその人と交互に手を叩くことは出来ますでしょうか。「何をそんな簡単なことを」とおっしゃるかも知れません。しかしこれは実際にやってみると非常に難しいことだとお気付きになることと思います。

もしかするとメトロノームに合わせて交互に手を叩くことは出来るかも知れません。しかし人間が相手の場合、その手拍子の感覚は揺れ動きます。この様な揺れ動くリズムを相手にして交互に手を叩くことは、とても難しいこととお気付きになるかも知れません。

次にメトロノームを裏拍に合わせて即興演奏や特定の楽曲を演奏することは出来ますでしょうか。ここでいう裏拍とは、4分音符でしたら2拍目/4拍目のことです。或いは8分音符でしたら2拍4拍6拍8拍のことです。この裏拍にメトロノームを合わせて演奏することは出来ますでしょうか ─── これは更に難しいことだとお気付きになると思います。

もしかしたら「そんな難しいことは出来ないのが当然だ!」と仰るかも知れません ─── しかしここに、日本語を母国語とする人だけが持っている特殊な時間認識の偏りを観察出来るのです。

裏拍にメトロノームを鳴らすことは決して簡単なことではありませんが、日本語以外の言語を母国語とする人…特に英語を母国語とする人は、これを多少練習すれば習得することが出来るのです。しかし日本語を母国語とする人は長い年月 ─── 場合によっては20年近い年月を要することも稀ではありません。

これにははっきりした理由があります ─── その違いは言語によるリズム認識の違いにあります。

テスト

縦乗りの人は、時間の認識の原理上「2人で交互に手を叩くことが出来ない」という特徴があります。 もしかするとメトロノームに合わせて交互に手を叩くことは出来るかも知れません。しかし不正確な人間を相手に交互に手を叩くことが出来ません。

しかし、相手が人間の場合、人間のリズムには微妙な揺らぎがあることから、その揺らぎに対して柔軟に対応する必要が発生します。つまり交互にリズムを合わせ続けるには「相手のゆらぎを感じ取りながら、自分のタイミングを調整する」という、より複雑な時間感覚が求められます。 ─── この人間同士で交互手叩きを行う場面で、時間認識の違いをはっきりと観察できる現象が観察出来るのです。

縦乗りの人は、時間認識の原理上、一定の間隔で鳴っているパルスと距離を取って同時ではない状態を維持することがとても難しく、結果として、人間同士での即時的なリズムのやりとり──すなわち交互に手を叩くような行為──が出来ないという現象となって観察されます。

一方縦乗りの人は、交互に手を叩くことは出来ませんが、不規則になっている手拍子に合わせて同時に叩くことなら即座に行う事ができます。これはむしろ、縦乗りの人に特徴的な能力で縦乗りの人以外には出来ない行為です。

これは些細なこと…と思われるかも知れません。しかし、ロック・ジャズ・クラシック・ファンク問わず、2人の奏者が交互に音を出すリズムが繰り返し現れることには注意が必要です。西洋音楽の最も基礎にバスドラムとスネアドラムを交互に演奏するリズムが現れます。特に現代あるアメリカ起源のポピュラー音楽は必ずこのリズムが登場します。

裏拍基軸リズム理論とは

裏拍基軸理論を一言でいうと『裏拍と表拍のどちらが先か』という視点を元にリズムを区分する方法論です。ここでの表拍裏拍という用語は、強拍・弱拍の様に楽典として正式に意味が定義されている用語ではありません。ここでは奇数拍の事を表拍偶数拍の事を裏拍 と呼ぶことにしましょう。 表拍が先行する感覚で演奏することをここでは表拍基軸と呼ぶことにしましょう。そして裏拍が先行する感覚で演奏することを裏拍基軸と呼ぶことにします。

グルーヴするリズムは必ず裏拍基軸です。

どんな音価にも強弱がある

縦乗りリズム理論 で説明したバダムツーは、4分音符も弱強で解釈し、8分音符も弱強で解釈するという2重の弱強解釈が登場します。

弱拍天動説と弱拍地動説

弱強リズム認識を持つ人(=ストレス拍リズム言語を母国語として話す人)は、リズムニュアンスを演奏する時に、弱拍位置を基準位置として固定し強拍位置を移動することでニュアンスを醸し出す習慣を持っています。

一方、強弱リズム認識を持つ人(=モーラ拍リズム言語を母国語として話す人)は、リズムニュアンスを演奏する時に、弱強リズム認識を持つ人と全く逆に、強拍位置を基準位置として固定し弱拍位置を移動することでニュアンスを醸し出す習慣を持っています。

なお日本の演歌では、伴奏側が表拍位置を基準位置を固定する役割を担い、歌唱者はその固定した強拍位置に対して、自分自身の演奏する強拍と弱拍の両方を移動することでニュアンスを演奏するという習慣があります。これは弱拍の位置が必ず固定になる弱強リズム認識と大きく異なる特徴です。この事については後述します。

この時、強弱リズム認識を持っている人は、この弱強リズム認識を持っている人のリズム認識を正しく認識することが出来ないという現象が起こります。

強弱リズム認識の人が弱強リズム認識のニュアンスが理解出来ない様子はあたかも、天体の動きを天動説で捉えると理解が困難になる様子とにています。

弱拍の位置が基準になっていることに気付けば全ては単純な動作に見えますが、強拍位置が基準になっていると認識していると途端に全てが複雑な動作となって見えてきます。

移動しているのは、自分が足をおいている強拍だった ─── それに気付く瞬間はまるで、天動説の人々が太陽が動いていると思っていたものが、実は自分たちが立っている地球自身が動いていると気付く瞬間ととても似ています。